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  男と女の事件簿

生下着に執着する還暦男 「俺のコレクション」
【S市発】■月□日、S北署は隣家に忍び込み、女性の下着を盗んだとして、住居侵入と窃盗の疑いで、無職立花敏夫(63)を逮捕した。容疑者は黙秘しているが、自宅の押入れから女性の下着やストッキングが300点見つかっており、同署は余罪を追及している。

 世の中にコレクターは少なくない。人気テレビ番組『〜鑑定団』を見ていれば、よくわかる。
 骨董品やコイン、絵画などの収集は高尚な趣味だが、中には困った収集家もいる。敏夫もその一人。集めているのが女性の下着だからだ。
 女性の下着に興味を持ってもいい。しかし、それが盗みと結びつくと犯罪である。
 会社では定年退職するまで真面目一筋の経理マンとして過ごした。若いころ、それなりの女性関係はあったものの、女手一つで育ててくれた実母の介護などに追われ、気が付くと独り身を通していた。そんな敏夫に周囲からは「女に興味がないのでは」などという声も出ていたが、実際はまるで違う。そこが人間の面白さだ。
 来る日も来る日も夢に見るのは熟れた女の体。耐え切れず風俗店に通ったこともあったが、それも退職してからは金銭的に厳しくなった。それでも、女体への興味は尽きない。結局、行き着いたのは生下着の収集だった。
「ワタシの下着を買ってください」。初めは、そんなキャッチコピーに誘われてネットで購入していたが、それはあくまで「商品」。生活感がない。敏夫が求めたのは、脱いだばかりの体温が感じられる生下着だった。


 きっかけはある日の夕方だった。介護施設に入った実母を見舞って自宅に戻ると、玄関で隣りの奥さんが待っていた。聞けば、小学校に通う長男が交通事故に遭ったという。
「これから病院に行きます。中学生の娘が帰ってきたら、この鍵を渡していただけないでしょうか。娘には携帯で知らせておきますから」
「わかりました。必ず渡します」
 血相を変えた奥さんの頼みを拒むことはできなかった。というより、日ごろから40代前半でありながら、上品で落ち着いた佇まいに惹かれていた。
「ここで奥さんに恩を売っておけば、親しくなれる」。そんな下心もあった。
 中学生の娘はなかなか帰ってこなかった。暗くなって隣家に行くと、中で電話が鳴っている。緊急の用件か。そう思って、預かった鍵でドアを開けて入り、受話器を取ろうとすると、電話は切れた。
 また、掛かってくるかと待っていると、浴室の洗濯干し場に目が行った。そこには数枚の女性下着が無造作にかかっていた。おっかなびっくり、奥さんのものと見られるグリーンのシルクのパンティを手にした瞬間、女の子の声が聞こえ、敏夫は慌ててパンティをポケットにねじ込んだ。
「電話が鳴っていたので家に入ったんだけど、切れちゃって」
「きっと、お母さんからよ。ちょっと前、携帯に連絡があったから。弟は心配ないそうです。もうすぐ帰ってくるよ」
「そりゃ、良かった」
「おじさん、留守番、ありがとうございました」
 そう言われ、下着を戻す暇なく、敏夫は自宅に戻った。
 夜、パンティを手にとってみた。奥さんがきのうまで履いていたものだろう。結構、ハイレグだ。狭い股当てにほおずりすると、いい香りが匂ってきた。相手に知られずに犯す感覚。震えるほど興奮した。
 

 以来、敏夫の下着コレクションが始まった。無職をいいことに昼間、近所を回り、留守だとわかると忍び込んで下着を盗む。今は住宅街だが、もともとが純朴な農村地帯。窓に鍵をかけずに外出するケースが多い。驚くほど簡単にコレクションが増えていった。夜、それを手に想像する。知り合いであればあるほど、顔を思い出し妄想が膨らんだ。
 それでも用心深かった。1回入った家は2度と入らず、盗むのは1枚だけ。これなら相手が気づくことも少ない。足がつかない知恵だった。
 誤算だったのは隣家の奥さんだ。顔を合わせると声をかけてくる。それが、敏夫の欲望をそそった。そのたびにグリーンのパンティを取り出し、下半身を熱くした。
 そうなると、もう1枚、欲しくなる。
 その日、隣りは朝から家族で出かけた。庭掃除をしながら見上げると、2階の窓は鍵がかかっていない。庭木の手入れを装ってはしごを使って忍び込んだ。そしてタンスを物色し、レースの刺繍が入った薄手の1枚を取り出した時、絶叫が響いた。
「何、しているんですか」
 立っていたのは奥さんだ。眉間が険しい。
「いや、ちょっと」
 そう言ったが、後が続かない。立ち尽くすばかりだ。母親の声で子供が110番通報。間もなく警察官が駆け付けてきた。
 自宅に戻り、聴取を受けた。家宅捜索で押入れの段ボール箱から多数の下着が見つかった。捜査員がにやけて、その1枚を手に取ると、敏夫は叫んだ。
「俺のコレクションだ。触るな」


(実際にあった事件をヒントにした創作です)