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  男と女の事件簿

封印してきた「Bの欲望」 出張先で突然の目覚め
【S市発】■月□日、S署は準強制わいせつの疑いでN市内の40代後半の会社員を逮捕した。調べによると、容疑者は出張中、旅館の同じ部屋に宿泊した20代の男性の下半身を触った上、下着姿をスマートフォンで撮影した疑い。被害男性が騒いだため通報された。容疑者は「同じ部屋に泊まることを承諾した時点で、同意していると思った」などと供述している。

 最近、新聞紙上などで「LGBT」という言葉を目にすることが多くなった。「L」はレズビアン(女性同性愛者)、「G」はゲイ(男性同性愛者)、「B」はバイセクシャル(両性愛者)、「T」はトランスジェンダー(性同一性障害)。つまり性的少数者を意味する言葉である。
 札幌市は昨年、他の政令指定都市に先駆けてLGBTを認めるパートナーシップ宣誓制度をつくり、登録者は増え続けているという。携帯の割引制度や入院時の面会もしやすくなるなど、利点はある。というより、周囲の目を気にしながら、世間の片隅でひっそり暮らしてきた男女にとって存在が認められること自体、うれしいに違いない。
 こうした制度が偏見を薄め、寛容な社会への一歩となることに期待したい。だが、現実はなかなか一筋縄ではいかない。
「L」「G」「T」は理解できる。難しいのは「B」だ。女だろうと、男だろうと、手あたり次第のイメージが強い。個人の性向だから、とがめ立てる筋合いはない。しかし、見境がなければ単なる「好き者」の両刀使い。だから、線引きは悩ましい。ましてや同意がなければ、理由はどうだろうと、わいせつ行為である。


 和夫は40歳を過ぎたあたりから若い男に興味を持ち始めた。結婚して15年。妻との関係も悪くない。子供も2人恵まれた。新聞紙上などにLGBTが取り上げられても、「自分は無関係」と信じて疑わなかった。
 それに迷いが生じたのは、すすきのにある美少年パブに足を踏み入れてからだ。取引先の社長に「面白いところに連れていってあげる」と誘われて、付いて行ったのが始まりだった。
 まばゆいばかりの店内で、少年たちが踊り、そして接待してくれる。怪しい雰囲気はない。あくまで明るく、そして楽しい。わくわくした。
 最初はためらいもあったが、少年好きの社長に連れられて通ううちに、どっぷり浸かった。社長に勧められるままにアフターに少年たちを店外のカラオケボックスに連れ込み抱き合うところまでは行ったが、やはり踏ん切りがつかず、キスまでは至らなかった。
 それでも、興奮が収まらなかった。その夜の夢に少年たちが次々に現れ、不覚にも夢精してしまった。
 以来、通勤途中などに初々しい少年を見ると、胸の高鳴りを感じることもあった。しかし、世間体などから「B」の欲望を封印してきた。


「もっと、飲みなさい。飲んで忘れるのも大人というものさ」
 出張先でたまたま入ったバー。カウンターで若い会社員が一人、グラスを傾け、涙を流していた。聞けば、3年付き合った彼女と別れたらしい。
「ヨウコが親友とできちゃったんです。僕が紹介さえしなければ、こんなことにならなかったのに」
 青年の問わず語りによると、どうやら恋人を親友に寝取られたらしい。
「女って、浮気な動物なんだよ。でも、それが分かれば、キミも一人前の大人さ」
 和夫が訳知り顔にそうつぶやくと、青年はすがるように抱きついてきた。父親のような人生の先輩に頼りたかったのだろうが、その瞬間、和夫が心の奥にしまっていた「Bの欲望」が頭をもたげた。出張先で素性も知られていない。ちょっとした出来心。和夫は酔った青年を自分が宿泊していた温泉旅館に連れ込んだ。
 夜中、隣に寝ている青年に軽い気持ちでキスしてみた。驚くことに、舌を絡めてきた。どうやら、振られた彼女と勘違いしているようだが、ねっとりした舌使いは、和夫を興奮させた。勃起しているのが分かる。下着の上からさすると、さらに怒張し腰をくねらせてくる。
 ここからどうしていいのか、分からない。とりあえず掛け布団をはぎとり、寝姿をスマホに収めた。「旅の思い出」にするつもりで。
 その時、「何、やってんだ」と大きな声が響いた。青年だ。中年男に体をまさぐられている。驚くのも当然だろう。青年が騒ぎ続けたため、旅館の主人が警察に通報した。
 狭い留置場で一夜を過ごし、取調室に入ると、同年配の刑事がニヤついている。
「アンタ、両刀使いだって。オッといけねぇ、セクハラになる。今はバイセクシャルって言うのかな。常習なの?」 「そうではありません。初めてです。それに彼だって同意して旅館に来たはずです」
「酒に酔わせて連れ込んだくせに。大相撲の立行司が若手の体を触って世間を騒がせたでしょ。示談にしないと、大変なことになるよ。早く、弁護士を呼んだ方がいい」
 和夫は返す言葉もなかった。
(実際にあった事件をヒントにした創作です)