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  男と女の事件簿

「S」に目覚めた40代 膨らんだ妄想の結末
【S市発】□月■日、A市は同僚の女性にセクハラを繰り返したとして、40代の課長を停職3ヵ月、係長職へ降格させる懲戒処分を発表した。課長は携帯電話のメールで卑猥な内容を送りつけ、執拗に性的関係を迫っていた。精神的苦痛から体調を崩した女性が別の上司に相談、発覚した。

 人それぞれには性癖がある。普段は気がつかないが、何かのきっかけでそれに目覚め、振り回される。そこがエロスの不思議なところだ。
 孝にとって、それは「S」の妄想だった。大学卒業後、地元で公務員となった。生来、真面目な性格で単調な公務員業務にも違和感はなかった。先輩の勧めで知り合った妻との15年に及ぶ家庭生活も波風が立たず、子宝にも恵まれて順調だった。
 だが、半年前あたりから夫婦生活がぎくしゃくし始めていた。互いにまだ40代。もちろん、夜の営みはある。愛撫し合って、それなりの満足感はある。とりわけ妻は舌と指で秘所を攻められるのを好み、始めれば3分ももたずに絶頂に達する。男として達成感はある。でも、それだけでは何か物足りない。
 妻が子供を連れて実家に帰った夜。居酒屋で同僚と飲み、別れた後、時間潰しにレンタルビデオ屋に寄った。3時間1000円の視聴室に入り、借りたビデオを回すと、孝の中で何かが弾けた。
 ビデオは、いわゆる熟女モノだった。AV女優とは思えない上品なたたずまいの人妻が若い男と絡む設定。男は言葉巧み、セックスレスという人妻を褒め上げ、その気にさせていく。最初は恥ずかしがった人妻もディープキスから胸をもまれていくうちに甘い吐息を漏らし、そんな時、男は卑猥な言葉を口にし始めた。
「もう、ドロドロになっている。欲しいんだろう?」。閨房では卑猥な言葉も媚薬になる。耳から入る刺激に耐えられなくなった人妻が自らペニスを口に含む。演技だとわかっているが、女を転がすテクニック。その征服感がたまらない。何度もそのシーンを繰り返した。といって、それを気が強い妻に試そうものなら、拒まれるのは目に見えている。


 それから数ヵ月後だ。弘子が孝の職場に現れたのは。夫が海外に単身赴任で不在。子供も高校生になったことからアルバイトで働き始めたという。短髪で肉付きがいい。上品な顔立ちは興奮したビデオの人妻に似ている。
 初めは課長とアルバイトの関係だったが、年齢が近いせいか、昼休みなどに言葉を交わしていくうちに何かと相談を受けるようになった。職場で話せば、人の目がある。相談はメールになった。
 弘子は一人息子のことで悩みを抱えていた。
「タバコを吸っているようなの。私から注意した方がいいかしら」
「年頃だ。気にすることはないよ」
 初めはそんなメールのやりとりだった。
 メールは決まって出勤途中に届いた。これなら妻に気がつかれることない。弘子の気遣いだろう。
 その朝のメールはいつもと違っていた。
「きのう、眠れなくて。きょうは化粧の乗りも悪くて最悪です」
 珍しく自分のことをつづっていた。
「あなたは美人だから、そんなこと、気にしないで。ところで、眠れない理由は何だったの?」
「美人と褒めて下さるの、嘘でも嬉しい。でも眠れなかった理由は秘密…」
 職場で顔を合わせた弘子は気だるい表情を浮かべていた。それが逆にそそる。熟れた体が火照る時もあるだろう。そう考えると、後ろ姿にむしゃぶりつきたくなる。
 昼休み。メールを送った。
「旦那さんが傍にいなくて寂しい時もあるでしょう」
「課長さんは何でもお見通しですね。何だか怖いわ」
「怖がらなくてもいいよ。何でも相談に乗るから」
 真昼間から職場の端と端でそんな淫びなメールを交わす。スリル感がいい。弘子も興奮しているのか、携帯画面から顔を上げ、潤んだ目を向けてくる。それからだ。孝のメールがエスカレートしていったのは。


「火照った体を鎮めてやろうか」  突然、そんなメールを送ってみた。ビデオの若い男のように。
 返事はない。当然だ。それが逆に孝の「S気質」を刺激した。
「あなたの体を想像すると、こちらが眠れなくなる。アソコが熱くなっている。若い頃のようだ」
 返事がなくても、卑猥なメールを送り続けた。「隅々まで舐めてあげるよ」「2人で登り詰めよう」…。
 弘子から久しぶりにメールが届いた。
「夫がいないのをいいことに課長に頼りすぎた私が浅はかでした。もう、メールは送らないでください。おかしくなりそうなので」
「おかしくなりそう」とは何だ。脈がある、あと、少し―。そう自分に都合の良い解釈をする。それが中年男だ。妄想がさらに膨らんだ。
「キミの体を悦ばせてあげるよ」
 翌日から弘子は欠勤した。数日後、上司の部長から呼ばれ、セクハラを追及された。証拠はそろっていた。


(実際にあった事件をヒントにした創作です)