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新・医療最前線

〈脳腫瘍、脳梗塞、くも膜下出血など脳神経外科編〉

 脳は運動神経や感覚神経など人のからだの働きを司る司令塔の役割を担う。そこが障害されると、麻痺はもちろん、生命に直接かかわる重要な器官である。今回の「医療ナビ」は脳の異常を取り上げ、脳神経外科が扱う主だった病気について、専門医の意見を交え、わかりやすく解説する。


はじめに


▲人のからだの症状(図)
 人のからだの症状を大まかに分類すると、27項目に分けられる(図)。
 今回はその中でH頭痛、I物忘れ、Jけいれんを取り上げ、脳腫瘍や脳梗塞、くも膜下出血など脳神経外科が扱う主だった病気の症状と診断、治療について専門医の意見を参考に、わかりやすく紹介する。
 ただ病気の治療は専門医による診断が不可欠なのは言うまでもない。治療の目安として活用いただきたい。







てんかん

 てんかんには@全身けいれんで倒れる「大発作」とA意識がぼうっとし、数分間動きが止まり、その間、記憶がない「部分発作」の2種類がある。@は薬物治療(バルプロ酸)を行い、それでも効果がみられない場合には吸引管で脳梁を離断する手術を行う。一方、Aの主な症状は「話しかけても返事をしない」、「舌なめずりをする」。
「てんかんの運転事故は部分発作によるもので、見逃されやすい病気なので注意を要する」と旭川医科大学の鎌田恭輔教授。
発症年齢は小児から高齢までと幅広い。カルバマゼピンなどの薬でおよそ7割が治るが、薬物治療で治らない場合には、側頭葉にある疾患部位を小さく切除する手術を行う。


三叉神経痛

 三叉神経は顔の上方、真ん中、下方に分布しており、三叉神経痛は@三叉神経自体の炎症、A三叉神経に生じた腫瘍(良性・悪性)が原因の場合もあるが、最も多いのはB三叉神経が血管に圧迫されることで起こるものだ。
 症状は歯痛や鼻が痛くなり、特に歯磨きや食事、冷たい風に当たったときに耐えられない痛みが生じる。そのため歯科や耳鼻咽喉科に受診することも多い。
 治療は鎮痛剤の投与や鎮痛剤によるブロック注射のような薬物治療を行う。ただ1〜2週間で薬の効果が失われるので治療を続けなければならない。
 薬の副作用や痛みが強い場合には「神経血管減圧術」という手術を行う。これは頭の後ろにある骨を小開頭して神経に触れている血管をテフロン(綿)でつり上げ、血管と神経の間に隙間をつくる手術だ。


顔面けいれん

 顔面けいれんは顔面神経が血管により圧迫されて、顔の左右どちらかの筋肉がけいれんする病気。
 痛みを伴わない点で三叉神経痛の症状とは異なる。加齢による動脈硬化で血管が硬くなり変形するため、神経を圧迫するのが原因だ。
 治療では抗てんかん薬や筋肉の動きを麻痺させるボトックス薬の注射が行われるのが一般的。手術は三叉神経痛の治療と同様、「神経血管減圧術」が行われる。


もやもや病

 もやもや病は原因不明で脳の血管が細くなる病気で、日本人に多く、子どもでも発症する。手足のしびれや脱力感、言葉が出なくなるといった症状があり、いずれも過呼吸動作によって誘発されることに特徴がある。進行すると脳梗塞や脳出血を起こす。
 薬物治療はなく、「バイパス手術を行えば、脳梗塞や脳出血をある程度、予防することができる。早期発見、早期治療が大切」(北大・宝金清博教授)


髄膜炎

 髄膜炎は脳脊髄液に菌やウィルスが入って感染する病気。体力が落ち、免疫力が低下した場合に発症し、一度、感染すると治りづらい。
症状は強い頭痛、発熱で重篤になると痙攣や意識障害を起こし、死に至ることもある。治療は抗ウィルス薬による薬物治療。「早期治療で治るが、治っても正常圧水頭症になることがあるので、注意が必要」(北大・宝金清博教授)


正常圧水頭症

 正常圧水頭症は、頭の中にある髄液を貯める袋が拡大することにより、脳が圧迫される病気である。加齢により髄液の循環のバランスが悪くなるのが原因だといわれている。症状は@認知症の症状、A歩行障害、B排尿障害の3つ。
 治療はチューブを挿入して脳に貯まっている髄液を腹部に流す手術「脳室腹腔あるいは腰椎腹腔シャント術」が行われ、薬物治療はない。


脳腫瘍 陽子線治療に有効な小児のがん「髄芽腫」


▲北海道大学
脳神経外科
宝金清博教授
――脳腫瘍の種類は。
 良性腫瘍には@髄膜腫、A脳下垂体腫瘍の2つの病気があり、悪性腫瘍にはB膠芽腫、C悪性リンパ腫、D髄芽腫、E転移性脳腫瘍があります。
 悪性腫瘍ではB膠芽腫が代表的です。脳を構成している細胞である「グリア細胞」ががん化したものを「グリオーマ」と呼びます。そのグリオーマは悪性度が4段階に分けられます。最も軽いもの(ステージT)は治療すると長期間、生存が得られます。最も悪化したもの(ステージW)が「膠芽腫」と呼ばれています。「膠芽腫」の場合、残念ながら平均生存期間は1年半ぐらいです。
 症状は突然起こる痙攣や片麻痺など良性の髄膜腫に似た症状が出ます。症状で悪性と良性を判断することは難しく、MRIによる画像診断で鑑別することになります。ちなみに脳腫瘍については腫瘍マーカー(採血)やPETは有効ではありません。
 膠芽腫の治療は、外科手術(開頭術)がメーンで、手術の後はテモダール(飲み薬)と放射線治療の併用が一般的です。
 C悪性リンパ腫は、生検で診断し、治療は一部切除手術のあとにメトトレキサートによる抗がん剤治療と放射線治療の併用になります。平均生存期間は5年ぐらい。
 D髄芽腫は小児のがんの半数を占め、再発しやすく、治療が難しい病気。圧倒的に小脳に起こる場合が多く、症状は頭痛、嘔吐、歩行障害(ふらつき)です。
 治療は外科手術(開頭術)のあと、放射線治療とくに陽子線治療(保険適応)が有効です。
 最後にE転移性脳腫瘍は、肺がんや直腸がんが脳に転移したものです。治療は放射線治療が基本となります。


脳卒中(くも膜下出血) 脳梗塞を併発しやすいくも膜下出血の発症メカニズム


▲札幌医科大学
脳神経外科
三國信啓教授
――くも膜下出血はどうして起きるのですか。
 くも膜下出血というのは、血管に風船のようなこぶ(瘤)ができ、これが破れて出血する病気です。
 未破裂動脈瘤はできやすい箇所があります。太い血管が分かれている分岐点にあたる血管の壁に力が加わり、こぶができやすくなることや高血圧などで血管自体がもろくなることが原因だと言われています。
 脳の場合には、頭蓋骨に囲まれているため、瘤が破裂して出血した場合、圧力の逃げ場がなく、重症化しやすい。瘤が破裂する前は瘤自体が1〜6ミリ程度と小さいため、脳への圧迫がなく、ほとんど症状がないんです。
――くも膜下出血が発症すると脳梗塞が続いて起きる理由は。
 くも膜の下に血が流れ込むと、そこにあった正常な血管が血のりによって細くなるんです(脳血管れん縮)。血管が細くなると当然血流が悪くなり、脳梗塞になる。くも膜下出血が発症しておよそ4日目から2週間の間に脳梗塞が起こります。
――治療は。
 治療ついては外科治療として動脈瘤にクリップをかける「クリッピング術」があり、この場合には全身麻酔と開頭が必要です。
 動脈瘤が大きくてクリッピングが難しい場合には主に浅側頭動脈を使い、血管をつないで別な血液の流れをつくる血管バイパスを行います。
 患者さんが高齢や重症の場合、動脈瘤の部位によっては、血管内にカテーテルを挿入して動脈瘤をコイルあるいはステントで塞ぐ血管内手術を行います。薬物治療については現段階では難しいのが現状です。


脳卒中(脳梗塞) 動脈硬化が「脳血栓」不整脈が「脳塞栓」


▲旭川医科大学
脳神経外科
鎌田恭輔教授
――脳梗塞の発症メカニズムは。
 原因は2つあげられます。1つは動脈硬化で血管の内側がつまる。2つ目は不整脈で心臓から血のかたまりが飛ぶ。前者を「脳血栓」といい、後者を「脳塞栓」と呼びます。
 動脈硬化がなぜ起きるかというと、血圧が高いと血管内の血液と直接触れている内膜に傷がつく。そこを修復しようとして血小板や白血球が集まって山状になる。でもその山は砂山のようで崩れ剥がれやすい。さらに剥がれた場所に血小板や白血球が集まり、徐々に血管が狭くなるわけです。
 一方、不整脈の場合には、たとえば心房細動になると正常時にみられるポンプのような動きが弱くなるため、心房内で血のりができます。その血のりが固まり脳の血管に飛ぶのが脳塞栓なんです。
――脳梗塞の症状は。
 前兆として、1日の間に数分間、片麻痺(片方の手が動かない)や言語障害(言葉が出ない)を繰り返します。たとえば、茶碗やペンを落とすようなことが数分間続く。これが発症の警告サイン。その2、3日後に脳梗塞が発症するので要注意です。
――脳梗塞発症後の治療は。
 発症して4・5時間以内は「t‐PA」という血栓溶解剤を使った内科的な治療が効果的ですが、同時にカテーテルで詰まっている血管を通す血管内治療を行います。
 頭の動脈が狭窄した場合には、頭の皮の血管を脳の表面につなぐバイパス術という外科的治療を行います。もう1つは血管内治療でカテーテルで狭窄したところに風船を広げるといった、バルーンによる血管形成術があります。