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新・医療最前線

〈前立腺がん、膀胱がん、過活動膀胱など泌尿器科編〉

 からだの中で膀胱や前立腺などの泌尿器の器官は、不要になった老廃物を体外に排出する働きがある。
 今回の「医療ナビ」は、排尿の異常のほか、性感染症や性機能障害など悩みの多い病気も取り上げ、泌尿器科が扱う主だった病気について、専門医の意見を交え、わかりやすく解説する。


はじめに


▲人のからだの症状(図)
 人のからだの症状を大まかに分類すると、27項目に分けられる(図)。
 今回はその中でQ排尿の異常を取り上げ、前立腺肥大症や前立腺がん、膀胱がん、過活動膀胱、腎がん、尿路結石、性感染症、性機能障害(ED)など泌尿器科が扱う主だった病気の症状と診断、治療について専門医の意見を参考に、わかりやすく紹介する。
 ただ病気の治療は専門医による診断が不可欠なのは言うまでもない。治療の目安として活用いただきたい。







前立腺肥大症

 前立腺肥大症は、前立腺が大きくなってその中を通っている尿道が圧迫され、尿の回数が増えたり(頻尿)、尿が出にくくなる病気。通常前立腺はクルミ大(約20cc)の大きさだが、30tより大きくなると症状が出る。
 検査は直腸診のあと、「尿流量測定」とエコーによる「残尿測定」。また1日の排尿時間と排尿量を「排尿日誌」で記録する。
 治療は、尿を出やすくする「α遮断薬」による薬物治療や肥大した前立腺を縮小させる「5αリダクターゼ阻害薬」(アボルブ)による薬物治療が行われる。それでも効果が不十分な場合には電気メスによる「経尿道的前立腺切除術」(TURP)やレーザーを使用した「ホルミウムレーザー核出術」(HoLEP)を行う。



腎がん

 腎がんは腎臓の皮質(尿細管)に発生するがん。初期症状はまったくなく、進行すると血尿、腹痛、背部の痛みの症状を呈する。
 治療は外科手術(全摘ないしは部分切除)が基本。肺やリンパなどに転移がみられる場合には抗がん剤による薬物治療が行われる。
 かつては直径10〜15センチになって見つかることが多かったが、最近は検診などにより比較的初期の段階(直径4センチ以下)で見つかるようになり、部分切除も可能になった。「従来は2つある腎臓のうち1つを摘出する全摘手術が行われていたが、それだと残された片方の腎臓に負担がかかり、慢性腎不全のリスクがあった。部分切除ができるようになったメリットは大きい」と北大の篠原信雄教授。腎がんの部分切除は「ロボット支援」(ダ・ヴィンチ)の保険適用にもなっている。
 一方、抗がん剤では分子標的薬が登場し、転移があってもその有効性が期待されている。
 また脳への転移においては、ガンマーナイフによる放射線治療が行われている。



性感染症

 性感染症で代表的なのが@尿道炎(淋病)とAクラミジア感染症、B梅毒である。@尿道炎は性交などを介して淋菌が尿道に入り、炎症を起こす病気である。症状は、膿が出る、排尿時にしみる。「通常の抗生物質で効かない淋菌が増えており、時代に合った薬剤の選択が必要」と札幌医大の舛森直哉教授。現在、セフェム系の抗生物質(静脈注射)が使われることが多い。
 Aクラミジア感染症は骨盤内腹膜炎を発症し、女性の場合、流産の原因にもなる。症状は尿道炎と似た症状だが、尿道炎と比べ軽い。尿道炎と同様、時代に合った薬剤の選択が必要で、治療ではアジスロマイシン(飲み薬)やテトラサイクリン系の薬(同)による薬物療法が行われることが多い。
 最近増加しているのが、B梅毒。症状は陰茎に無痛性の潰瘍や股の付け根のリンパ節の腫れ、皮膚の紅斑など。治療はペニシリン(飲み薬)による薬物治療が行われる。



性機能障害

 性機能障害は@勃起障害(ED)とA射精障害、B性欲の異常(低下)に分けられる。@勃起障害の治療ではバイアグラやレピトラ、シアリスに代表されるPDE5阻害薬が使われる。「心臓病の方がこれらの治療薬を服用して血圧が下がり致死に至る場合もあるので、インターネットで購入したり他人から貰うことはせず、必ず医療機関で診断、処方してもらいたい」と札幌医大の舛森直哉教授。



尿路結石

 尿路結石は尿中にあるカルシウムやシュウ酸、尿酸などが結晶になり、大きくなる病気である。@腎臓にできる「腎結石」とA尿管にできる「尿管結石」、B膀胱にできる「膀胱結石」に分けられる。
 症状は腎結石では尿潜血(尿に血が混じる)、尿管結石の場合は背部や脇腹への激痛、膀胱結石は血尿や膀胱炎の症状を繰り返す。
 腎結石や尿管結石の治療では、サイズが4・5ミリ以下であれば放っておいても体外に排出される自然排石を促す薬物療法が行われ、それ以上だと体外衝撃波破砕術(ESWL)や最近では内視鏡を使った結石破砕術が行われている。
 膀胱結石については内視鏡による砕石術やサイズが大きい場合には小切開による開復術(切石術)が行われる。



前立腺がん 前立腺の外側に発生する「前立腺がん」 治療せず経過観察でよい場合も


▲北海道大学
腎泌尿器科
篠原 信雄教授
――前立腺がんで治療しなくてよい場合があるのですか。
 はい。日本人の3人に1人に前立腺がんがあると言われています。でも心配しなくてよいのは、がんがあることが問題ではなく、がんが大きくなり増殖するのが問題なんです。その場合には経過観察でよい。治療の必要性の基準を調べるための研究が世界で行われました。
 診断は、直腸診と超音波エコー、PSA検査、生検で診断します。ただPSA検査では正常値はないので、参考程度に確率で判断します。転移については骨シンチグラフィーで骨への転移を、CTでリンパ節への転移を診ます。
 治療は転移がない場合には@監視療法(経過観察)、A手術、B放射線治療があります。80歳以上の高齢で手術や放射線治療ができない場合にはCホルモン治療をする場合もあります。
 手術は前立腺全摘出術を行い、@「開腹」、A「腹腔鏡」によるもの、B「ロボット支援」(ダ・ヴィンチ)によるもの──があります。最近はロボット支援の手術が多数例行われ、良好な成績が得られています。放射線治療は@X線治療(強度変調放射線治療)、A陽子線・重粒子治療、B小線源治療があります。
 転移がある場合には、@ホルモン療法とA抗がん剤による化学療法しかありません。
 ホルモン療法は精巣をとる「精巣摘出術」と、注射と内服薬の併用があります。化学療法では抗がん剤の「ドセタキセル」や「カバジタキセル」を使います。


膀胱がん 一度でも真っ赤な尿が出たときには必ず検査を


▲札幌医科大学
泌尿器科
舛森 直哉教授
――膀胱がんの症状と治療は。
 通常は自覚症状でわかります。40歳以上の喫煙者で痛くも痒くもないのに真っ赤な尿(血尿)が出た場合はきわめて膀胱がんの疑いが強いので検査を行います。女性の場合、膀胱炎になりやすいですが、膀胱炎では排尿の際、痛みや残尿感があり、血尿も出る場合がありますが、膀胱がんには痛みがない。ある意味では見つかりやすいんですが、何回か排尿するとぴたっと血尿がなくなるんです。それで「治った」と思って受診しないで手遅れになるケースが多い。1回でも血尿があれば泌尿器科にかかることを強くお薦めします。
 治療は表在がんの場合は電気メスによる内視鏡的切除術を行います。がんの顔つきによっては、間を置かずに2回目の切除を行うこともあります。また表在がんは50%の確率で再発するため、膀胱の中に抗がん剤やBCG(弱毒型の結核菌)を注入する再発予防の治療を行います。
 一方、浸潤がんでは膀胱を全部とる「根治的膀胱摘除術」を行い、併せて生存期間を延ばすために膀胱の周りのリンパ節を完全切除する「リンパ節郭清」を行います。また症例によっては、手術前に抗がん剤による治療を行い、がんを小さくしてから手術を行います。
 浸潤がんの場合には5年生存率が50%。浸潤がんの場合は転移しやすい。転移した場合は、抗がん剤治療になりますが、腫瘍を小さくできても完全に治すことは困難ですから、早期発見、早期治療が重要です。



過活動膀胱 男性は前立腺肥大症、女性は妊娠・出産で膀胱の機能や尿道の支えが弱まるのが原因


▲旭川医科大学
腎泌尿器科
柿崎 秀宏教授
――過活動膀胱の発症のメカニズムは。
 加齢により、膀胱の機能が低下することが背景にあります。女性の場合、妊娠・出産を経て骨盤の筋肉や筋膜の構造が弱くなり、尿道の支えが弱くなるのも原因のひとつです。
 男性の場合には前立腺肥大症との関係もあります。前立腺肥大症の方の6割が過活動膀胱になるといわれています。
――症状と診断は。
 尿意切迫感を中心とする症状があるかないかが、過稼働膀胱を診断する上で重要なポイントになります。急に我慢できないほどの尿意をもよおし、漏らしたり、頻尿になったりする場合です。
 また尿検査を行って、膀胱炎などの尿路感染の有無を調べます。男性の場合、超音波エコーで前立腺の大きさや残尿の状況を調べます。それからトイレで排尿してもらい尿流測定器で尿の勢いを測定することも必要に応じて行います。
――治療は。
 薬物治療が主ですが、その薬物治療に入る前に行動療法を行います。これは患者さんの生活習慣をチェックするもので、水分の摂り過ぎで尿量が増えていないかなどチェックします。具体的には患者さんに1日の排尿回数を記録する「排尿日誌」をつけてもらい、生活習慣の改善をアドバイスします。
 また女性で骨盤の筋肉が弱くなって過活動膀胱の症状が出ている方は、「骨盤底筋訓練」といって、腹圧をかけないで肛門だけを収縮させる運動を繰り返すと、効果があります。
 薬物治療では@抗コリン剤とAβ3作動薬のどちらか、もしくは併用します。