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新・医療最前線

〈肺がん、気管支喘息、COPD、 間質性肺炎など呼吸器科編〉

 人は酸素と水と栄養がなければ生命を維持することができない。外気から酸素を体内に取り込むのが肺を中心とした呼吸器で、外気に触れるため、他の臓器と比べ、環境の影響を受けやすい。
 今回の「医療ナビ」は、肺がんや気管支喘息、COPD、間質性肺炎など、呼吸器科が扱う主だった病気について、専門医の意見を交え、わかりやすく解説する。


はじめに


▲人のからだの症状(図)
 人のからだの症状を大まかに分類すると、27項目になる(図)。
 今回はその中で㉕せき・たん・息切れを取り上げ、肺がんやCOPD、間質性肺炎など呼吸器科が扱う主だった病気の症状と診断、治療について専門医の意見を参考に、わかりやすく紹介する。
 ただ病気の治療は専門医による診断が不可欠なのは言うまでもない。治療の目安として活用いただきたい。







肺結核

 肺結核は肺炎の一種で、結核菌により炎症が生じる病気。空気を通して人から人に感染する。潜伏期間はまちまちで、2〜3年で発病するケースもある。症状は慢性的な咳や痰、食欲がなくなる、微熱など。特徴的な症状がないため、発見が遅れたり、健康診断で見つかることも多い。
診断は胸部X線撮影やCT、最近は採血によるQFT検査(クォンティフェロン)も行われている。治療は抗結核薬による薬物治療。
「近年、海外観光客などから伝染する傾向が顕著になっている」(旭川医大・大崎能伸教授)



誤嚥性肺炎

 誤嚥性肺炎は、脳卒中などの基礎疾患がある人が脳からの指令に過ちが生じて誤って飲食物を気道の中に吸い込み、その細菌により気道に炎症をきたす病気である。症状は咳と痰、そして高熱(38℃以上)。「ただ高齢者の場合は微熱程度なので、注意が必要」(札幌医大・高橋弘毅教授)。
 予防のためには誤嚥訓練、治療は抗生剤による薬物治療が行われる。



呼吸不全

 からだに必要な酸素を肺が取り込められなくなり、血液の中の酸素が足りなくなる病態を呼吸不全といい、急激に発症する「急性」と他の病気にともなって徐々に発症する「慢性」とに分けられる。急性呼吸不全には気胸や溺水、肺うっ血など。一方の慢性呼吸不全は肺気腫やCOPDなどがある。慢性呼吸不全の場合には、原因となる他の病気(基礎疾患)の治療が治療の基本となる。



気胸

 肺は風船のような構造になっており、穴があくとしぼんでしまう。しぼむと肺が動かなくなるので、空気の出入りがなくなり、息が苦しくなる。これが気胸だ。
 片側の肺に起きる場合のほか、両側の肺に起こることもある。自然に発生するもの(自然気胸)と外的要因で発生するもの(たとえば、骨折で骨が肺に刺さって穴があく)とに分けられる。
 自然気胸は若年に多く、10代の罹患者のほとんどは自然気胸。原因は肺の外側の膜が傷んでいたり、薄く破れやすいことが原因だといわれている。
 症状は急に起こる息苦しさや違和感(胸の中でごわごわ音がする)など。診断は胸部X線撮影。治療は軽症だと経過観察で済むが、中症以上は胸の中に管を挿入して空気を抜き肺を膨らませる治療「胸腔ドレナージ」(脱気療法)を行う。それでも効果がない場合には手術(縫縮術)を行う。「手術の進歩で最近では最初から手術を勧める場合もある」(旭川医大・大崎能伸教授)



肺気腫

 肺気腫は、気管支の先にある空気の袋がぶどうの房状になっている「肺胞」の壁が炎症により壊れていく病気。息を吐く際、息が出て行きにくくなるため、症状は息切れが主で、咳や痰が出ることもある。
 診断はCT検査。治療は気管支拡張薬や喀痰調整薬、抗菌薬、ステロイド薬などによる薬物治療。息苦しさを和らげる呼吸リハビリテーションも大切だ。



咳喘息

 咳喘息は、2ヵ月以上にわたって咳が続く慢性咳嗽の一つ。気管支喘息とは異なるが、喘息の治療(吸入ステロイドや気管支拡張薬)を行うと治る。
 原因は気管支喘息と同じアレルギー(ペットの毛やカビ、ダニなど)で、主症状は咳(但し、気管支喘息のように呼吸の度に気道が「ヒュー、ヒュー」と鳴る喘鳴はない)。



サルコイドーシス

 サルコイドーシスは原因不明の難病(特定疾患)で、全身に炎症性の腫瘤(肉芽腫)ができる。目と肺の臓器に発生しがちだが、心臓に発生する場合には不整脈で心停止をきたし、突然死する場合もあるので要注意だ。肺の場合は咳や呼吸困難が主な症状だが、症状が出ない場合もある。治療はステロイドによる薬物治療が行われる。



気管支喘息・COPD 軽症でも肺がん、肺炎の リスクになるCOPD


▲北海道大学
呼吸器内科
西村 正治教授
――気管支喘息とは。
 気管支喘息は気管支が収縮する病気ですが、背後に炎症があり、@気管支を拡張させる治療と、A炎症をとる治療の二つが必要です。
 @の治療は、「β刺激薬」という気管支拡張薬を使い、Aの治療は「吸入ステロイド」という薬を使います。Aの「吸入ステロイド」を使わないで@「β刺激薬」だけを使うのは喘息死につながるので、絶対にやってはいけません。この二つの薬が一緒になった「配合剤」も普及しています。
――COPDとは。
 COPDも気道の炎症なんですが、気管支喘息のようにアレルギーで起こるのではなく、大気汚染や喫煙によって起こる。
 治療としては禁煙が一番なんですが、進行すると煙草をやめても炎症が続きます。COPDは気管支よりさらに細く枝分かれした細気管支で炎症が起きます。これが末梢気道病変です。しかも周辺が線維化して固くなる。その先の肺胞の壁も炎症を起こして壁が壊れる。それが肺気腫です。
 当然、酸素を取り込めなくなって呼吸困難になる。少し歩いただけで息切れする、休まないと階段が上がれない、などの症状がこの病気の特徴です。COPDは以上の末梢気道病変と肺気腫が合わさったものをさします。
 特に高齢者の肺の健康の面でCOPDは大変重要で軽症でも肺がんや肺炎のリスクが高くなります。
――治療は。
 第一に抗コリン薬という気管支拡張薬を使います。但し喘息で使われるβ刺激薬を使う場合もあります。進行した場合は抗コリン薬とβ刺激薬の双方を併用し、その配合剤もあります。


間質性肺炎 進行して線維化すると完治が難しい間質性肺炎


▲札幌医科大学第三内科
(呼吸器科)
高橋 弘毅教授
――間質性肺炎が注目される理由は。
 難病などの治療で分子標的薬など最新の薬が開発されていますが、そのような薬で間質性肺炎を発症した事例が相次いでいます。かつて社会問題になったのが肺がんの分子標的薬「イレッサ」で、通常の抗がん剤と比べて間質性肺炎の発症率が3倍、しかも間質性肺炎を発症した患者の半数が亡くなった事例でした。
 もう一つは間質性肺炎の中には原因不明のものがあって、一定の診断基準を満たした方について国は「特発性間質性肺炎」として特定疾患(難病)に指定したので注目されています。
――症状と治療は。
 症状だけで判断はできませんが、とりたてて挙げるなら「コン、コン」という、痰を伴わない空咳(乾性咳嗽)が3ヵ月以上続く場合には、ほかの病気(肺がん、結核、喘息など)を含めて念頭に置いた方がよいでしょう。進行して肺の機能が落ちると呼吸困難(息切れ)になります。これはCOPDと似た症状です。
 治療は薬物治療と重症の場合の「在宅酸素療法」、呼吸リハビリです。特発性間質性肺炎の中の特発性肺線維症については抗線維化薬「ピレスパ」が特効薬として使われ、新薬「ニンテダニブ」も登場しました(保険適用)。
――完治するのですか。
 薬剤性や過敏性肺炎の早期では原因を除去することで元に戻る場合が多い。ただ間質性肺炎が進行して線維化になると進行を抑えることはできても完治は難しい。
 これに対し、原因が不明のものや基礎疾患に難病がある場合には原因が除去できていないので慢性的に進行する場合が多いです。


肺がん 新たな分子標的薬の登場で抗がん剤治療に期待


▲旭川医科大学
呼吸器センター
大崎 能伸教授
――肺がんは症状が出にくいのはなぜですか。
 それは肺の末梢に腫瘍ができる「肺野型」というがんが増えているのが理由です。「肺野型」は細気管支や肺胞など、肺の奥の部位にできるため、かなり大きくならないと症状が出ません。
 症状のない肺がんは健康診断で見つかることが多いので、「肺がん検診」を年1回受診されることをお勧めします。
――治療は。
 肺がんのステージはT期からW期までありますが、TとU期の場合は外科手術(葉切除およびリンパ郭清術)を行います。手術ができないVとW期の場合には、分子標的薬による治療が有効です。
 肺がんの場合、分子標的薬が非常に進んでいて、従来は最も進行しているW期の肺がんで余命が10ヵ月でしたが、分子標的薬の開発でいまでは5年以上元気でいる患者さんも増えています。
 第一世代(イレッサなど)のほかに、新たに第二世代(アファチニブ)や第三世代(オシメルチニブ)の薬剤も出回り、分子標的薬の治療効果が上昇しています。
 免疫療法では分子標的薬の手法を用いた免疫療法が登場し、その効果が期待されています。すでに悪性黒色腫(メラノーマ)に用いられていたもので「抗PD‐1抗体」(オプシーボやキイトルーダ)が肺がんの免疫療法に用いられています。