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新・医療最前線

〈認知症、うつ病、統合失調症など精神科編〉

 高齢化やストレス社会にあって、認知症やうつ病などの精神疾患が増加傾向にある。2011年にはがん、脳卒中、心臓病、糖尿病に加え、「五大疾病」の一つに指定された。
 身近な病気でありながら、わかりずらい「こころの病」について、専門医の意見を交え、わかりやすく解説する。


はじめに


▲人のからだの症状(図)
 人のからだの症状を大まかに分類すると、27項目になる(図)。
 今回はその中で㉖食欲の異常と㉗だるさ・無気力、⑩物忘れを取り上げ、うつ病や統合失調症、認知症など精神科が扱う主だった病気の症状と診断、治療について専門医の意見を参考に、わかりやすく紹介する。
 ただ病気の治療は専門医による診断が不可欠なのは言うまでもない。治療の目安として活用いただきたい。







パニック障害

 パニック障害は、身体疾患はみられないのに、死ぬかもしれないと思えるほどの動悸や呼吸困難、不快感(胸や腹)、自律神経症状などからなる「パニック発作」(過呼吸症候群も含まれる)が繰り返し起こる病気である。不安に陥りやすい脳や心理状態が関係していると考えられるため、治療は抗不安薬や抗うつ薬が有効だ。



てんかん

 ヒト脳では、140億個にも及ぶ神経細胞が複雑なネットワークを形成している。その神経細胞の一部が数秒〜数十秒にわたって発作性に異常興奮すると、脳は誤作動を起こす。この発作が反復して起こる脳の病気が「てんかん」だ。
 てんかんは、85歳までに100人中4人が発症するといわれる。どの年齢でも発症するが、高齢発症てんかんでは、健忘(もの忘れ)を繰り返すのが特徴。診断は脳波検査で異常興奮を確認することが重要となる。「認知症と誤診されやすいが、認知症と違って少量の抗てんかん薬で完全に症状を抑えることができる」と旭川医大の千葉茂教授。



解離性障害

「解離」では、特定の場面や時間の記憶が抜け落ちて、その間に自分らしくない行動をとっていることがある。解離性障害は、解離症状を主とする病気で、そのために社会的・職業的に支障をきたし、対人関係にも困難を抱えることになる。本人が解離症状に気づいていないことも少なくなく、診断が難しい面もある。
 解離性同一性障害は、一人の人間の中に複数の人格(パーソナリティ)が存在するような状態が見い出されるもので、大半の場合、幼少期に虐待を繰り返し受けていると言われており、女性に多いことが知られている。
 解離性障害は心的外傷との関連が示唆されているため、治療もそれに準じた心理療法が推奨されている。
「わが国でも海外でも有効性が確認されている薬物療法はありませんが、呼吸法や筋弛緩法などのリラクゼーション法を用いて、不安や緊張の緩和に努めることは有用です」(北大・久住一郎教授)



摂食障害

 摂食障害(拒食症)は、太りたくないという肥満恐怖と、痩せ過ぎているにも拘らず、まだ太っているという誤った認識(ボディイメージの歪み)から食べなくなり、栄養失調状態に陥る病気。女性に多く、死に至る場合もある。
 前述の@拒食症(無食欲症・食べない、吐く、下剤を濫用するなど)が基本だが、その反動でA過食症(大食症・短時間に食べては吐く)に転じる場合もある。
 拒食症の治療では、体重低下が著しい場合は、入院の上、栄養補給とともに認知行動療法を含めた精神療法が中心的な治療となる。「基本的に入院治療が必要となり、目標体重を段階的に設定しながら標準体重に近づける治療を行っていきます」(北大・久住一郎教授)



アスペルガー症候群

 アスペルガー症候群は、発達障害の一つで、子どものときに症状があらわれて、それが大人まで続く。症状は、他人とうまくコミュニケーションができない、自分の感情を他人に伝えることができない、特定の物事にこだわりがあってそれがないと落ち着かない、日常でやることが決まっていて、それを変えられたり予想しないことが起きるとパニックになる(癇癪)など。
 現段階では確立された治療はなく、社会性を養う「ソーシャルスキルトレーニング」やパニックが懸念される場合には抗精神病薬が使われる。



アルコール依存症

 日本人は従来から飲酒に寛容で、病的酩酊や依存症を見逃してしまいがちである。診断は、飲酒への渇望、飲酒を制御できないこと、アルコール耐性の増強、飲酒を中止した時の離脱症状などで行われる。
 慢性期の治療には動機付けが必要だが、自助グループ活動が効果的で、これに薬物療法を組み合わせることもある。



過眠症

 過眠症は睡眠障害の中に分類され、日中の過剰な眠気を主訴とする。ナルコレシプシー(耐えがたい日中の眠気と居眠り、寝入り端の悪夢、大笑いしたあとの脱力、不眠など)が有名だが、現代社会では睡眠不足(インターネット依存などによる夜更かし)が最も多い原因だといわれている。
「両者は似た症状を呈するが、治療法はまったく異なるので、専門医による確定診断のもとで適切な治療を」と旭川医大の千葉茂教授。



統合失調症 抗精神病薬でドーパミンの過剰を調節し陰性症状はリハビリで改善


▲北海道大学大学院
医学研究院
精神医学教室
久住 一郎教授
――統合失調症の発症のメカニズムは?
 統合失調症でよく知られている症状は幻覚や妄想などの陽性症状であり、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの過剰によって起こると考えられています。
 統合失調症は思春期に発症する病気です。他の臓器は生まれるときに、すでに完成していますが、神経だけは思春期まで発達を続け、この時期になってようやく完成します。遺伝子的要因に加えて、出産時のトラブル(出生時仮死など)や幼少期のストレスなどの環境的要因によって神経の発達が悪くなることが原因とみられています(神経発達障害仮説)。これらの神経発達の障害が成人後の脳内ドーパミンの過剰につながると考えられています。
 ドーパミンのほかに、興奮性神経伝達に関係するグルタミン酸系の一種であるNMDA系が関連している、と言われています。このNMDA系の機能が低下すると、「自発的に何かをしようという気持ちがなくなる、生き生きとした感情がわかなくなる」などの陰性症状や「注意の集中が続かない、物事をてきぱきと処理できない」などの認知機能障害が出ます。
――治療は。
 ドーパミン受容体を遮断する抗精神病薬で、陽性症状を抑えます。
 一方、陰性症状や認知機能障害の治療は、現在のところリハビリテーションが中心になり、作業療法、デイケア、生活技能訓練(SST)、認知リハビリテーションなど様々な方法があります。薬物療法では、NMDA系の機能を高める新薬が開発中ですので、その効果が期待されます。


うつ病 莫大な患者数と自殺との関係で社会問題に


▲札幌医科大学
神経精神医学講座
河西 千秋教授
――うつ病とは。
 気持ちの落ち込みは誰もが経験しますが、うつ病は、脳機能に異常をきたすほど病的なものを指します。
 症状としては、気分の落ち込み、物事への興味・喜びの減退、食欲低下、不眠、気力の減退、無価値感や自分を責める気持ち、思考・集中力低下、そして自殺に傾く気持ちなどからなります。また多くの場合、身体各部の不調が現れます。これらが一日中、しかも毎日続くのがうつ病なので、相当苦しい状態です。そのために、自殺や自傷行為を生じることが少なくありません。
――うつ病は自殺と関係しているのですね。
 日本では、10代から30代の死因の1位は自殺で、40代でも2位です。自殺者全体の3分の1以上は60代以上の方々ですが、これらの30〜50%にうつ病が関係します。
――注意する点は。
「うつ」かな?と思う人が近くにいたら、声掛けをしてみましょう。全く心配がない事が分かればそれでよいですし、「実は…」と深い悩みを打ち明けられ、しかも心身の不調が続いているなら傾聴に努め、必要に応じて受診を勧めてみましょう。間違っても、「現代型うつ」とか「新型うつ病」といったレッテル貼りはしないでください。
――治療は。
 軽症であれば、「精神療法」だけでよくなります。体調回復のために睡眠剤を使用することもありますが短期的に使用するだけです。やや重ければ抗うつ薬を使用しますが、通常1種類で、補助的に睡眠剤などを使う場合でも原則は1剤追加する程度です。その場合でもやはり精神療法が中心となります。


認知症・睡眠障害 レビー小体型認知症の初期症状 気を付けたい「REM睡眠行動障害」


▲旭川医科大学
精神医学講座
千葉 茂教授
――認知症と睡眠障害との関連について。
 睡眠障害は主に@「睡眠不足」A「過剰睡眠」B「睡眠時の行動異常」C「睡眠時間帯がずれている」の4つに分類されます。そのうち@睡眠不足による睡眠障害は認知症にみられる、もの覚えの悪さや集中力の低下、誤認などを惹起します。この場合、睡眠が充足されれば、認知症が改善されることはあります。
 またレビー小体型認知症では前述Bの睡眠障害である「REM睡眠行動障害」(RBD)といわれる夜間、夢見の体験に基づいて異常な行動をきたします。
――REM睡眠行動障害とは。
 睡眠にはREM睡眠とNONREM睡眠があります。REM睡眠では神経系が働いて夢を見ても行動を起こさないように制御しています。ところが神経が変性してそのシステムがうまく働かないと、夢を見た時、夢の続きとして行動に起こしてしまう。それがREM睡眠行動障害です。具体的には睡眠時に「からだの一部を動かす」、「叫ぶ」、「上半身を起こす」、「壁に突撃する」、「隣りにいる人を殴る」など。REM睡眠行動障害の場合、レビー小体型認知症の初期症状(サイン)としてとらえる必要があります。
 睡眠中に寝言を言う人がいますが、寝言とはまったく別なものです。寝言はノンレム睡眠のときに起き、心配はいりません。あと、睡眠障害で先程の4つの症状が1ヵ月以上続き、生活(QOL)に支障が出る場合には治療が必要です。治療は経過をみて、症状に応じて薬物治療を行います。